安衛法28条の2においては、製造業の他、安衛令第2条1号2号業種に対して「リスクアセスメントとその結果に基づく必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と、いわゆる努力義務規定となっています。
一方、安衛則第21、22条ではリスクアセスメントの結果と講ずべき措置について安全衛生委員会で調査審議すべき事項と規定されていますので実質的には努力義務を超えた規定と考えることが出来ます。(「委員会の設置義務のない事業場においては、関係労働者の意見聴取の機会を活用する」ということが指針の施行通達で示されています。)
現在計画期間中の第14次労働災害防止計画における重点8対策の大半で事業者に取り組んでもらいたいこととしてリスクチェック、リスクアセスメントが求められており、リスクアセスメントの実施は、国が求める労働災害の防止のための主要な対策であります。
安衛法28条の2施行10年後の2017年労働安全衛生調査によれば、製造業では62.7%が実施しているとの回答でしたが4割近くは実施しておりません。実施しない理由としては、「十分な知識を持った人材がいないため」「実施方法が判らないため」「労働災害が発生していないため」「法令を守っていれば十分なため」「危険な機械や有害な化学物質等を使用していないため」「その他」(複数回答)とされています。
最新の2024年労働安全衛生調査結果でも、製造業において機械のはさまれ・巻き込まれ災害防止に取り組んでいる企業においてリスクアセスメントを実施している企業は46.8%にとどまっています。
考えるべきは、リスクアセスメント以外の対策としては「機能安全を活用した機械を導入している」「わかりやすい取扱説明書を作成している」「注意喚起の標識を掲示している」「作業者に使用方法・取扱方法を教えている」「その他」となっています。これらは、複数回答ですので、リスクアセスメントを実施したうえで、これらの対策を行っているのであれば良いのですが。
例えば、「機能安全を活用した機械を導入している」からとの回答ですが、機能安全は、あくまで機械製造者側での設計結果であり、かつ危険時に停止する対策が主体であり、危険源を消したわけではありません。
さらに、これ以外の回答はいずれも人的対策に頼るという旧来の安全対策の域を超えていないといえるのではないでしょうか。
2024年調査ではリスクアセスメントを実施していない理由の調査は行っておりませんが、2017年調査と同様の傾向ではないかと推測されます。
このように未だリスクアセスメントの取組が低調という現状の中、令和7年第217回国会で労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律が成立し、令和7年5月14日に公布(令和7年法律第33号)されたのは、皆さん良くご存じと思います。労働者と同じ場所で働く個人事業者等を労働安全衛生法による保護の対象及び義務の主体として位置づけ、注文者等や個人事業者等自身が講ずべき各種措置を定めています。
この国会で同じく提出されたILO第155号条約の批准も承認され、令和8年4月1日に批准書がILO事務局長に寄託されたことはご存じでしょうか。
令和7年法律第33号の成立により業種を問わず、労働者や個人事業者が混在する作業場所を管理する者に対して、自らと請負人が行う作業間の連絡調整等の必要な措置を義務付ける内容を含んでおり、ILO第155号条約における複数の企業に係る協力義務(条約第17条)を実行できるものとなっていることから、本条約を批准する法整備に目途がついたことによるものです
この条約の第16条では、「使用者は、合理的に実行可能な限り、その管理の下にある職場、機械、設備及び工程が、安全かつ健康に対する危険がないものであることを確保すること」が要求されております。
従って、批准登録後12カ月後には効力が生じるILO第155号条約を満足するためには第16条で規定される「合理的に実行可能な安全かつ健康を確保するための対策」が必要となると言えます。
「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」では
(2) (1)の検討に当たっては、リスク低減に要する負担がリスク低減による労働災害防止効果と比較して大幅に大きく、両者に著しい不均衡が発生する場合であって、措置を講ずることを求めることが著しく合理性を欠くと考えられるときを除き、可能な限り高い優先順位のリスク低減措置を実施する必要があるものとする。
となっています。
指針の施行通達によれば、「指針の10(2)は、合理的に実現可能な限り、より高い優先順位のリスク低減措置を実施することにより、「合理的に実現可能な程度に低い」(ALARP)レベルにまで適切にリスクを低減するという考え方を規定したものであること。」とされており、ILO第155号条約第16条と整合的となっています。
すなわち、グローバル基準との整合性を果たすためにはリスクアセスメントを実施することにより、「合理的に実行可能な限り、その管理の下にある職場、機械、設備及び工程が、安全かつ健康に対する危険がないものであることを確保」することが求められており、単に国内法では努力義務であるからということでは、サプライチェーン全体のコンプライアンスが求められる国際社会では、許されなくなるのは必定です。
講演では、これらの内容について皆さんと考えることができればと思います。
筆者情報

労働安全コンサルタント
井筒庸雄 氏
技術士(総合技術監理部門、建設部門) 土木学会 フェロー会員
2023年6月、技術士・労働安全コンサルタント事務所「技術進化研究所」を開業。建設会社他の営業・技術支援等の各種コンサルタント業務を開始。労働安全関係では、2024年6月より一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会の事務局担当として、各種企業からの安全衛生相談、会員への業務紹介等を担当。自身も全国産業資源循環連合会専門誌INDUSTへの寄稿、大手鉄道会社・大手通信事業会社などを含む各種企業等での安全講演、建設会社・廃棄物処理会社等の現場安全診断、専門商社・放送事業者・再生可能エネルギー事業者等の安全規程・リスクアセスメント実施要領などの作成支援等を実施。
2025年6月、副支部長(事務局担当)に就任し、現在に至る。
2023年6月、技術士・労働安全コンサルタント事務所「技術進化研究所」を開業。建設会社他の営業・技術支援等の各種コンサルタント業務を開始。労働安全関係では、2024年6月より一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会の事務局担当として、各種企業からの安全衛生相談、会員への業務紹介等を担当。自身も全国産業資源循環連合会専門誌INDUSTへの寄稿、大手鉄道会社・大手通信事業会社などを含む各種企業等での安全講演、建設会社・廃棄物処理会社等の現場安全診断、専門商社・放送事業者・再生可能エネルギー事業者等の安全規程・リスクアセスメント実施要領などの作成支援等を実施。
2025年6月、副支部長(事務局担当)に就任し、現在に至る。