今年の日本の桜は、天候にも恵まれ、降雨も少なく絶好の花見日和が続き、多くの国民に愛でられたようです。この美しく清廉な桜のように、働く職場も明るく楽しい場所、各個人が自分らしく働ける場所となるように、皆で取り組んでいきましょう。そのためには、健康というものが、こころとからだ、そして取り巻く環境により大きく影響を受けることを正しく知っておくことが重要ですね。WHO(世界保健機構)も、健康の定義として「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいう」と述べています。
厚生労働省は、「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に」と銘打って、以下のごとく健康づくりを図表で示しています。(国民健康白書令和6年)

個人の行動と健康状態の改善とともにその土台となるこころの健康の維持及び向上について重要視しています。そのため、2006年に労働安全衛生法に基づくメンタルヘルス指針を公表し職場におけるメンタルヘルスへの取り組みを進めるとともに、2015年にストレスチェック制度を導入し、2025年の労働安全衛生法の改正により、これまで努力義務とされていた常時労働者数 50 人未満の事業場(「 小規模事業場」)におけるストレスチェックの実施を義務としました(令和7年5月14日公布。施行日は 公布の日から政令で定める3年以内の日」)。小規模事業所へのストレスチェック制度の導入・実施に際しては課題も多く、産業医の選任義務はないこと、実施に際しては小規模であるが故の職場内のプライバシーへの配慮が強く求められます。実務担当者は社内の衛生推進者等や、さらに小規模の場合は事業主自身が行うとしても、実施に際しては外部委託を行うことが推奨されています。また小規模事業所は、産業医の選任義務がない事業所であるために、医師面接の実施に際しては地域の産業保健推進センターに相談し無料で面接を実施することが可能です。
小規模事業所へのストレスチェックの導入にはこの様なこと細やかな対応が必要であり、一方大規模事業所ではストレスチェックの結果を活用した集団分析や職場環境改善を実施することが事業主に努力義務として求められています。
さて、こころの問題には自殺者についても理解しておかねばなりません。自殺者数の推移は、以下に示すようにここ数年は自殺者数に大きな変化は見られませんが、一方で死亡原因を見てみると、2023年に統計の取り方の変更もありましたが、経済・生活問題、家庭の問題、勤務問題が約1.5倍に増えています。但し、健康問題が最も多数の課題であることも、決して忘れてはならず、健康の保持増進は、自死を予防する必須事項です。
近年、定年退職の延長や定年制度の廃止、定年後再雇用制度の導入などで、働く人の年代は数十年前よりも幅広く、10代後半から65歳または70歳ぐらいまでの就業者が存在しています。そうした職場内では、労働者間での物の考え方や価値観などに大きく隔たりがあり、行為者には悪気はなく、良かれと思って行った行為や当たり前と考えていた行為がハラスメントにつながっていく傾向が見えてきています。
年代別に強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄のある人の内容と割合を見てみると

令和4年の厚生労働省の調査結果で、20歳未満では、仕事の量、仕事の質・対人関係の失敗・責任の発生等に関して、ストレスを感じる割合が多いのですが、高齢になるとそうした問題に関してはストレスを感じる割合は少なく、逆に雇用に関しての不安が増えています。また中間管理職を勤める年代といえる40代では、顧客や取引先からのクレームに関してのストレスが他の年代よりも多い傾向にあります。
最近では、若年層はSNSでコミュニケーションをとることが基本となっていることが多く、自身の行動について指導された時には、職場の上司や先輩、同期に相談するよりも、まず自身の行動の正しさをSNSで確かめることが少なくないそうです。新入社員と受け入れる職場のメンバーの意識の隔たりは意外に大きく、前述した価値観のギャップやコミュニケーションをとる方法の差異などから、新入社員から上司や先輩に相談することが今一つ進んで行いにくく、課長等中堅幹部は若い世代と熟練した技を持つ高齢労働者に挟まれ、さらに顧客や取引先とのやり取りに精神をすり減らす毎日となっています。そして高齢労働者は、それまで当たり前であった根性論や社会常識が若年層にはほぼ通じず、時間を経て職場の先輩としての信頼を高齢労働者が若年層から得るまで、その先輩の指導や社会的な常識論も若い世代には通用しない傾向があります。パワーハラスメントなどの裏側には、世代間の認識の差が大きく影響していることが予測され、こうした世代間の意識の差を埋めるためには、互いを人として尊重することは前提の上で、互いの考え方をよく理解することに尽きるようです。仕事上の誤りを、罵声を浴びせるなどの昔から行き過ぎた指導法といわれるものは当然今の時代もやってはならないが、そうでない場合、本当にパワーハラスメントに該当するかは、行為者と被行為者間の人間関係とその時の状況を十分に確認することが重要です。
尚、ストレスチェックで職場診断を行い改善を企画する際には、その職場で働く労働者の意見を率直にしっかりと聞き取り企画することが重要で、改善提案が「あるべき論」の羅列では、職場改善は困難です。働く人のそばに行き、その職場を観察し、しっかりと話を伺い、冷静に判断していき、取り組める内容を関係者で作り上げていくことが必須です。
さて、長々と働きやすい職場づくりに関して述べてきましたが、この夏の日本能率協会主催の労働安全衛生展では、健康課題改善にも触れながら職場の心の問題、職場改善の在り方にも触れていきます。皆様のご参加をお待ちしております。
筆者情報

労働衛生コンサルタント(一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会 東京支部所属)
実務家教員
澤 律子 氏
東京警察病院研究検査第一部、警視庁科学捜査研究所研究員、
(一財)日本予防医学協会常務理事を経て2019年、澤ヘルスデザイン究所を設立。
2021年先端教育機構社会情報大学院大学実務家教員養成課程修了
第一種衛生管理者、衛生工学衛生管理者、心理相談員
建設業労働災害防止協会COHSMS資格認定員
産業保健法務主任(一般社団法人日本産業保健法学会認定)
東京警察病院研究検査第一部、警視庁科学捜査研究所研究員、
(一財)日本予防医学協会常務理事を経て2019年、澤ヘルスデザイン究所を設立。
2021年先端教育機構社会情報大学院大学実務家教員養成課程修了
第一種衛生管理者、衛生工学衛生管理者、心理相談員
建設業労働災害防止協会COHSMS資格認定員
産業保健法務主任(一般社団法人日本産業保健法学会認定)