中小規模事業者の労働災害
中小企業庁が公表した中小規模事業者の従業員数は3,310万人/構成比69.7%[うち小規模事業者(従業員20人以下):972.6万人/構成比20.5% 2021年6月1日時点]でした。 厚生労働省が公表した事業場規模別の死傷災害発生件数は、労働者数300人未満では12.3万件/構成比91.4%[うち労働者数30人未満:5.9万件/構成比43.9% 職場の安全サイト 令和5年業種別規模別の労働災害発生状況]となっています。 多くの労働安全関連の調査研究でも指摘されていますように、中小規模事業者の労働災害の発生割合が高く、労働者数100人から299人の事業所の度数率は、千人以上に比べ約4倍という数値もあります。
中小規模事業者の労働安全の問題点
中小規模事業者の労働安全管理には、
- 人材面・収益面等に余裕がなく、安全活動の推進力が弱い
- 経営者には経営リスクの視点から安全意識はあるが、経営幹部は業務優先の意識が強い
- 企業の専門領域に対する知識・スキルは高いが、安全管理のノウハウは低い
という問題点が指摘されています。しかし、この問題点は労働安全に限ったものではなく、経営面においても同様な問題点があげられています。
つまり、中小規模事業者の労働安全管理は経営管理と一体的に行う取組みであり、大企業のそれらとは異なる取組みが必要であるといえます。
第14次労働災害防止計画
2023年3月27日に公示された「第14次労働災害防止計画」では、中小規模事業者への施策が盛り込まれ、特に、次の囲みの計画が示されています。
中小規模事業者の労働災害発生防止の推進力を高めるには、労働安全と中小企業経営の専門的知識・スキルを有している企業外部の者の活用と、企業経営(マネジメント)と一体的に取組むことが必須であることを、この計画は示しているものと、私は解釈しています。
中小規模事業者のリスクアセスメントとリスクマネジメント
企業経営では、リスクマネジメントをリスク評価(リスクアセスメント)とリスク低減策(回避・低減・移動・許容)の組合せとしています。そして、最も重要なことは、リスク低減策の実施においてPDCAを回し、不確実性の高い現在(VUCAの時代)において不断の見直しを励行することです。 中小規模事業者のリスクアセスメントの実施が低調であるといわれていますが、その原因として、前述の問題点から少ない経営資源の中でリスク評価を実施しますが、リスク低減策は法令遵守を優先することに留まり、その効果を経営者が評価できていない点にあると考えます。 しかし、人員・人材不足、新技術の採用、法改正対応、経営資源の有効活用、事業の永続性確保などを考慮すると、リスクアセスメント・リスクマネジメントの効果的な実施は、企業経営と安全活動に必要であることは過言ではないと考えます。
中小規模事業者集団による労働安全の取組み
中央労働災害防止協会編集発行の「令和6年度 安全の指標」の第4編第6章に「中小規模事業場における労働災害防止対策」において、安全衛生活動を中小規模事業場が集団として実施することは、スケールメリット、相互啓発、相互研鑽という点から効果的と示されています。 中小企業庁が所管する中小企業等協同組合法により設立されている事業協同組合は令和5年3月末において19,370組合になります。ほぼ全業種個々に組織化されています。またこれらの各団体は中小企業団体中央会に所属しています。都道府県毎の中央会で、多くの中小企業診断士が活動しています。 リスクアセスメントにおける危険源・危険状態・危険事象とリスクレベルは、業種毎に共通化でき、その取組みを中小規模事業場集団が担えると私は感じています。その上で、中小規模事業者は自社の経営資源である技術力とノウハウ・スキルを発揮し効果的なリスク低減策の立案と実施マネジメントに投入できると考えています。内容によっては自社事業の成長発展に活用できるかもしれません。 このような取組の成果は、推進力を強化するだけでなく、より魅力ある企業に成長する機会を与えることになると確信しています。
労働安全コンサルタントと中小企業診断士の活用
リスクアセスメント・リスクマネジメントを効果的に実施するには、情報収集が大切です。 この7月24日から開催される第11回労働安全衛生展は国内でも少ない労働安全衛生を中心にした展示会です。このコラムを読まれた方は参加されると思いますが、私共労働安全衛生コンサルタント会東京支部は日本能率協会との共同企画で特別講演会を三日間開催します。是非、この講演会にもご聴講されることを御願い申し上げ、有用な情報を収集されることをお薦めします。 また、中小規模事業の経営者・幹部の皆様、及び事業協同組合の皆様が、経営改善と安全活動の改革を推進したいと考えられる際には、是非、労働安全衛生コンサルタント会東京支部にお尋ねください。 当会は中小企業診断士も参加しており、他の中小企業診断士との連携を図りつつありますので、皆様の課題解決に貢献できると思っております。活用できるものは大いに使いましょう。
筆者情報
労働安全コンサルタント(一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会 東京支部所属)
中小企業診断士(一般社団法人東京都中小企業診断士協会所属)
坪田 章 氏 氏