活動が形骸化していませんか
「皆様の職場では、安全衛生における活動は何をされていますか?」このフレーズは筆者が各職場にお伺いする際に、最初に投げかける質問です。読者の皆様方にも同じ質問でお聞きいたしますが、如何でしょうか?
さて新年度がスタートして、職場の安全衛生計画の諸活動も始まったばかりです。各業種・業態によって活動の内容、活動の広がりや深さは異なりますが、この中でも「ヒヤリハット活動報告」は、ほぼ全ての職場において実施されていると言っても過言ではありません。皆様の職場でも実施されておられるところが多いと思います。一般的に日頃の業務の中で「ヒヤリ」とした、「ハット」した事象を報告する活動ですから、活動内容が理解しやすく、また職場に馴染み易い活動です。
一方で、各職場の安全担当者からお伺いするのですが、ヒヤリハット報告が出てこないといったお悩みを抱かれているケースを多くお聞きします。また1件/月等の目標設定をして、強制的に報告するように促しておられ、社員の皆様が自律的に活動している理想的な状態とは言えません。
何が問題なのでしょう
本来であれば、ヒヤリハットは働く人々から自主的に報告してもらう活動であり、強制的に報告を義務付けるものでは無いと考えます。始めた当時は活発であったのに、どうして報告が挙がってこなくなるのでしょうか。主な要因として以下が考えられます。
- (1)報告内容に感謝していない。(ありがとうの感謝の言葉の不足)
- (2)報告内容や改善結果を見える化していない。(報告者へフィードバックの欠如)
- (3)報告内容から現場導入対策が増え、現場作業全体を圧迫している。(ダブルチェック等)
【社員側の要因として】
- (1)作業の中でヒヤリやハットとして気が付かない。(リスク感度等の低下)
- (2)報告を挙げるのが面倒くさい。(報告メリットの理解不足)
- (3)自分のミスを報告したくない。(心理的安全性が低い職場環境)
皆様の職場でも同様な要因が見当たらないでしょうか。そもそもヒヤリハット活動は、不安全状態やヒューマンエラーを含めた不安全行動をヒヤリハット情報として現場から積極的に吸い上げ、多角的な視点で分析し対処して、災害の未然防止に生かす活動です。そんな素晴らしい戦術(活動)も兵站が十分でなければ効果が持続できません。十分なヒヤリハット情報を兵站として有効活用できれば改善活動を持続的に実施することが出来ます。
あるべき活動とは
安全衛生に関わる者は、安全衛生活動を常に満足することなく、また大丈夫と思わず適度な不安感を持つことが活動や努力のインセンティブとなり得ます。ヒヤリハット活動も同様に、不安感は作業のリスク感度と連動し、リスク感度の向上と質の高い活動に結び付きます。これを前提として、職場上司や安全衛生担当者はヒヤリハット活動の活性化のために、以下の3点を実行されると良いでしょう。
- (1)報告されたことに対して感謝すること。
- (2)報告内容に前向きに取り組むこと。
- (3)いい仕事へつなげていく(改善に繋げ、報告者にフィードバックする)流れを意識すること、等が大切です。この流れはヒヤリハットの形骸化の要因を排除することになる重要な要素です。
まず出来ることから始めよう!
ヒヤリハット活動は、社員の皆様の危険感受性が高まり、職場の作業状態や行動上の潜在リスクを顕在化する効果があります。また同類のヒヤリハット項目が多い場合は、危険源を特定することに繋がり、リスクアセスメントの実施対象としてリスクの除去や低減措置が図れ、安全で安心な職場に生まれ変わる可能性が高まります。
最近の社会動向では、安全衛生活動は災害防止だけでなく企業イメージや企業価値向上につながり、社会的にも評価されるようになりました。一方で安全で安心というレピュテーションが下がると将来の収益悪化にもつながり、経営環境にも大きなインパクトを与えるようにもなってきました。
安全衛生活動を活性化し、地域社会の中で、信頼と信用の高い永続的企業として存続し続けるために、ヒヤリハット情報を「気がかり情報」にまで範囲を広げ、主語を本人だけでなく同僚や上司、お客様など利害関係者まで広げて、現場から報告しやすくするのも手です。特にステイクホルダー視点は安全性だけでなく事業者のサービスや製品の質を格段に上げることに貢献出来ます。
今までの活動に、少しの変化と工夫を加えるだけで、働きやすい職場環境が実現できますので、まず出来ることから始めてみましょう。
参考:岡田有策(2023):ヒューマンエラーと経営戦略
筆者情報
労働安全コンサルタント(一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会 東京支部所属)
中小企業診断士
浅利 栄文 氏
Bizライフコンサルティング