COLUMN 今こそ考えたいストレス対策:
「ストレスフリー」を考える

困っている人のイラスト

ストレス対策を見直す好機

近年よく耳にする「ストレスフリー」という言葉があります。これはどのようなことを意味しているのでしょう?「職場からストレスをゼロにすること」と言った人がいました。はたして、そうなのでしょうか?

さて、新年度がスタートし、新社会人として働き始めた方もいれば、職場異動で新しい職場で働き始めた方、また、新たなメンバーを迎え入れたばかりという職場の方もいらっしゃるでしょう。一緒に働く人の顔ぶれが変わると新しい視点が加わって職場に活気が出てきます。
一方で、少し時間が経つと、お互いに違和感を感じてぶつかってしまうこともあります。でも、これは決して特別なことではありません。当然なことです。これだけ社会が多様化し、経験した背景の異なる人が一緒に仕事をするのだから、ぶつかることがあって当然です。

厚生労働省の調査によると仕事や職業生活に関する強いストレスを感じている人は53.3%で、その主なものは、「仕事の量」「仕事の質」「対人関係」となっています(令和3年度調査)。新しいメンバー、新しい仕事がスタートしたちょうど今、職場のストレス対策を見直すのに好機ともいえるかもしれません。

ストレッサー(ストレスの引き金)が問題か?

1968年にHolmesらが発表したストレス度(ストレッサーとなる出来事)を点数化したものやそれを日本人で調査したもの1)によると、ストレスは仕事に関連するものもあれば、プライベートな仕事以外のものもあり、出来事によってそのストレス度は異なることがわかります。そして、その出来事を丁寧に見ていくと、「配偶者の死」や「会社の倒産」といった明らかに悲しい出来事に加えて「抜擢に伴う配置転換」や「結婚」といった喜ばしい出来事もストレッサーに挙げられていることがわかります。
したがって、ストレッサーとは、仕事上・仕事外問わず、生活上の変化となる出来事として捉えることができます。

筆者は、ストレスチェックを実施し、その面談の一端を担うことも多く、このような声を聴いたこともあります。「私の職場はずっと長く何年も変化がないのです。この先もずっと同じなのかと思うと本当に味気なくて、なんともやりきれない気持ちになります。」
このことから、ご存じの方には思い起こしていただきたいのが、ストレス学説を提唱されたハンス・セリエ(Hans Selye)博士が唱えたといわれる言葉です。「ストレスは人生のスパイスである」。つまり、ストレスそのものが悪ではなく、ストレス(厳密にはストレス反応を引き起こす引き金となるストレッサー)を抱えきれなくて対処できないことが問題と言えます。もちろん、大きすぎる(多すぎる)ストレッサーは問題です。

「ストレスフリー」はどんな姿?

つまり、「ストレスフリー」とは、こんなふうに考えられないでしょうか。
できるかぎりのストレッサーを減らす一方で、個人の対策としても「どうすれば上手く対処できるか」を常に考えながら、上手く他者のサポートを得てストレス反応を減らせること。目新しい考え方ではなく、ストレス対策の基本の考え方です。あらためて、そのポイントを挙げるなら次のような点でしょう。

  • ストレス(ストレッサー)は悪いとばかりはいえない
  • ストレッサーをできるだけ軽減させたいが、ゼロにならない可能性はある
  • ストレッサーによる個人(職場)のストレス反応を小さくするための個人の対策(認知・考え方、睡眠や食事・運動などの生活行動)も重要で、一方で身近な他者のサポートも上手く得られる工夫も重要

今すぐできるちょっとした実用的なストレス対策

そこで、新しいメンバーを職場に迎えられた方に、少し時間が経過したところ(1~3ケ月)で是非お勧めしたいのが次のようなさりげない真面目な雑談としての声かけです。
「うちの職場で、うまく仕事ができたなぁと感じられたのはどんなところ?」「うちの職場で仕事してみて戸惑ったところはどんなところ?」
職場にすっかり馴染んでしまうと、職場の良いところも課題も見えにくくなりやすいものです。時に耳の痛い言葉をもらうかもしれません。が、ここは、率直な声にじっくり耳を傾けてみてください。(ストレスチェックを実施されている職場であればそれに加えて)実用的な職場のストレス対策につなげられる可能性があります。

ちなみに、個人で行えるストレスチェックは、厚生労働省のHP「こころの耳」で5分程のweb診断で行うこともできます(「5分でできる職場のストレスチェック」のコーナー)。この「こころの耳2)」は、働く人(職場)のメンタルヘルス対策に特化したポータルサイトです。企業規模に応じた他社事例の情報も得られます。時季に応じた記事も常に刷新されていますので、時々チェックされるとよいでしょう。

「職場のストレス対策」が貴社にとって有益なものになっているかどうか、新年度がスタートした今こそ点検をお勧めします。

参考:
1)夏目誠(2008):出来事のストレス評価
2)こころの耳