コラム
COLUMN
展示会では多くのソリューションと講演会を体験できますが、来場が難しい方もいらっしゃいます。
本展示会の目的は「働く人の安全・健康・快適な職場づくり」を支援することです。「労働安全衛生」「猛暑対策」「騒音・振動対策」についての知識を深め、社内での取り組みを促進するきっかけを提供します。誰もが安全で快適に働ける社会実現のため、有用な情報発信と体感型展示会の開催を目指しています。有識者のコラムも掲載します。
一般社団法人日本能率協会
産業振興センター 猛暑対策展/労働安全衛生展/騒音・振動対策展/におい対策展 事務局
本コラムへのご要望は下記までお送りください。
E-mail:hs-osh@jma.or.jp
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2026/04/23
化学物質の自律的管理をどう進めるか
令和4年5月に厚生労働省令が改正・公布され、新たな化学物質管理のあり方が示されました。これまで事業場では、特別則(有機則、特化則等)にて対象とされる化学物質の個別規制を遵守することで法対応を行ってきましたが、今後は特別則対象物質以外の全ての化学物質について自律的に管理することになりました。 化学物質の自律的管理とは、危険有害性のある化学物質について国が管理の基準を設定し、事業者は事業場にてその基準以下で化学物質を取り扱う義務を負うが、その対応方法は事業者に任せるというものです。 また自律的管理の対象は広く、化学物質を製造または取扱う事業場および譲渡または提供を行う事業場等においては、事業場の規模や業種にかかわらず全ての事業場が自律的管理の実施対象となっています。 ここでは、化学物質を製造または取り扱う事業場の職場では何を実施しなければならないかについてみてみます。以下の次項が実施できているか点検してみてください。 事業場で製造・取り扱っている全ての化学物質について危険有害性を把握する。全ての取扱い物質のSDSを入手できていますか。取り扱い物質が、リスクアセスメントの対象物質か、皮膚等傷害化学物質の対象物質か、がん原性物質の対称物質か、濃度基準値やばく露限界値が設定されているか等把握できていますか。 化学物質管理者を選任し、事業場内に周知する。 リスクアセスメントを実施する。化学物質には危険性(爆発・火災)と有害性(中毒、発がん性)がありますが、両方の性質を併せ持つ化学物質についてはどのようにリスクアセスメントを行っていますか。有害性のリスク評価は、ばく露濃度を実測する方法ですか、クリエイトシンプル等の数理モデルを使用したばく露濃度を推定する方法ですか。 リスクアセスメントの結果に基づき、職場で労働者がばく露される程度を最小限度(濃度基準値以下あるいはばく露限界値以下)とするために、ばく露低減措置を検討し実施する。 SDSを使い、労働者に化学物質の危険有害性を教育し、リスクアセスメントの結果を労働者に周知する。 保護具を使用している職場では、保護具着用管理責任者を選任し、保護具の適切な選択、使用、そして保管について管理させる。 取扱い化学物質に皮膚等傷害化学物質に該当する物質があるかを確認し、取り扱っている場合は、皮膚への直接接触を防止するため適切な保護具を選択し、使用させる。 化学物質の管理状況について(安全)衛生委員会の付議事項とし、労働者に周知する。 皆さんの事業場では既に、リスクアセスメントは実施しているし、化学物質管理者および保護具着用管理責任者も選任済と思いますが、化学物質の自律的管理の進捗状況はいかがでしょうか。 これまで、化学物質の管理は、事業場で誰が管理するのか曖昧で、安全管理者或いは衛生管理者が適宜行っていたか、現場管理者や作業主任者任せが実態だったのではないかと思います。 今後、この自律的管理では、化学物質管理者が化学物質管理の全体をコントロールする権限を与えられたキーマンとして管理を推進することになります。その化学物質管理者の職務は、事業場における化学物質の管理に係る技術的事項の管理とされ、具体的には以下の管理事項があります。 リスクアセスメント対象物のラべル表示や危険有害性情報(SDS)の通知に関すること リスクアセスメントの実施に関すること リスクアセスメント等の結果に基づく措置の内容及び実施に関すること リスクアセスメント対象物を原因とする労働災害が発生した場合の対応に関すること リスクアセスメントの結果の記録の作成と保存、およびその周知に関すること リスクアセスメントの結果に基づくばく露低減措置等に関する記録と保存、および労働者への周知に関すること 労働者に対する必要な教育に関すること 以上のように、化学物質の自律的管理に関する業務は多岐にわたり、化学物質に関する専門的知識もある程度必要となることから、化学物質管理者と保護具着用管理責任者任せにするのではなく、事業場全体で組織的に取り組む必要があると考えます。
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2026/04/15
はたらきやすい職場づくり~メンタルヘルスを中心に~
今年の日本の桜は、天候にも恵まれ、降雨も少なく絶好の花見日和が続き、多くの国民に愛でられたようです。この美しく清廉な桜のように、働く職場も明るく楽しい場所、各個人が自分らしく働ける場所となるように、皆で取り組んでいきましょう。そのためには、健康というものが、こころとからだ、そして取り巻く環境により大きく影響を受けることを正しく知っておくことが重要ですね。WHO(世界保健機構)も、健康の定義として「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいう」と述べています。 厚生労働省は、「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に」と銘打って、以下のごとく健康づくりを図表で示しています。(国民健康白書令和6年) 個人の行動と健康状態の改善とともにその土台となるこころの健康の維持及び向上について重要視しています。そのため、2006年に労働安全衛生法に基づくメンタルヘルス指針を公表し職場におけるメンタルヘルスへの取り組みを進めるとともに、2015年にストレスチェック制度を導入し、2025年の労働安全衛生法の改正により、これまで努力義務とされていた常時労働者数 50 人未満の事業場(「 小規模事業場」)におけるストレスチェックの実施を義務としました(令和7年5月14日公布。施行日は 公布の日から政令で定める3年以内の日」)。小規模事業所へのストレスチェック制度の導入・実施に際しては課題も多く、産業医の選任義務はないこと、実施に際しては小規模であるが故の職場内のプライバシーへの配慮が強く求められます。実務担当者は社内の衛生推進者等や、さらに小規模の場合は事業主自身が行うとしても、実施に際しては外部委託を行うことが推奨されています。また小規模事業所は、産業医の選任義務がない事業所であるために、医師面接の実施に際しては地域の産業保健推進センターに相談し無料で面接を実施することが可能です。 小規模事業所へのストレスチェックの導入にはこの様なこと細やかな対応が必要であり、一方大規模事業所ではストレスチェックの結果を活用した集団分析や職場環境改善を実施することが事業主に努力義務として求められています。 さて、こころの問題には自殺者についても理解しておかねばなりません。自殺者数の推移は、以下に示すようにここ数年は自殺者数に大きな変化は見られませんが、一方で死亡原因を見てみると、2023年に統計の取り方の変更もありましたが、経済・生活問題、家庭の問題、勤務問題が約1.5倍に増えています。但し、健康問題が最も多数の課題であることも、決して忘れてはならず、健康の保持増進は、自死を予防する必須事項です。 近年、定年退職の延長や定年制度の廃止、定年後再雇用制度の導入などで、働く人の年代は数十年前よりも幅広く、10代後半から65歳または70歳ぐらいまでの就業者が存在しています。そうした職場内では、労働者間での物の考え方や価値観などに大きく隔たりがあり、行為者には悪気はなく、良かれと思って行った行為や当たり前と考えていた行為がハラスメントにつながっていく傾向が見えてきています。 年代別に強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄のある人の内容と割合を見てみると 令和4年の厚生労働省の調査結果で、20歳未満では、仕事の量、仕事の質・対人関係の失敗・責任の発生等に関して、ストレスを感じる割合が多いのですが、高齢になるとそうした問題に関してはストレスを感じる割合は少なく、逆に雇用に関しての不安が増えています。また中間管理職を勤める年代といえる40代では、顧客や取引先からのクレームに関してのストレスが他の年代よりも多い傾向にあります。 最近では、若年層はSNSでコミュニケーションをとることが基本となっていることが多く、自身の行動について指導された時には、職場の上司や先輩、同期に相談するよりも、まず自身の行動の正しさをSNSで確かめることが少なくないそうです。新入社員と受け入れる職場のメンバーの意識の隔たりは意外に大きく、前述した価値観のギャップやコミュニケーションをとる方法の差異などから、新入社員から上司や先輩に相談することが今一つ進んで行いにくく、課長等中堅幹部は若い世代と熟練した技を持つ高齢労働者に挟まれ、さらに顧客や取引先とのやり取りに精神をすり減らす毎日となっています。そして高齢労働者は、それまで当たり前であった根性論や社会常識が若年層にはほぼ通じず、時間を経て職場の先輩としての信頼を高齢労働者が若年層から得るまで、その先輩の指導や社会的な常識論も若い世代には通用しない傾向があります。パワーハラスメントなどの裏側には、世代間の認識の差が大きく影響していることが予測され、こうした世代間の意識の差を埋めるためには、互いを人として尊重することは前提の上で、互いの考え方をよく理解することに尽きるようです。仕事上の誤りを、罵声を浴びせるなどの昔から行き過ぎた指導法といわれるものは当然今の時代もやってはならないが、そうでない場合、本当にパワーハラスメントに該当するかは、行為者と被行為者間の人間関係とその時の状況を十分に確認することが重要です。 尚、ストレスチェックで職場診断を行い改善を企画する際には、その職場で働く労働者の意見を率直にしっかりと聞き取り企画することが重要で、改善提案が「あるべき論」の羅列では、職場改善は困難です。働く人のそばに行き、その職場を観察し、しっかりと話を伺い、冷静に判断していき、取り組める内容を関係者で作り上げていくことが必須です。 さて、長々と働きやすい職場づくりに関して述べてきましたが、この夏の日本能率協会主催の労働安全衛生展では、健康課題改善にも触れながら職場の心の問題、職場改善の在り方にも触れていきます。皆様のご参加をお待ちしております。
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2026/04/07
改正労働安全衛生法への対応上の留意点
昨年(2025年)5月14日に公布された「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」は、一部の規定を除いて本年4月1日までに施行されています。特に対応の必要なのは、今後施行される部分かも知れませんが、すでに施行されている事項への対応はお済でしょうか。また、今後施行される事項に対する準備はお済でしょうか。 個人事業者等の安全衛生対策の推進 (1)注文者などへの注文時の施工方法や工期などに対する配慮規定(すでに施行) 従来、労働安全衛生法(以下 安衛法)第3条3項に規定されている建設工事の注文者等の「等」を建設工事以外の注文者も対象であることが明確にされました。 (2)混在作業場所における元方事業者等への措置義務対象の拡大(すでに施行) 事業者を異にする作業者が混在して行う作業を場所における労働災害防止対策の対象が個人事業者等を含む作業従事者に全般に拡大されたことと、機械等貸与者又は建築物貸与者の講ずべき措置について、個人事業者等に貸与する場合にも拡大されました。 (3)個人事業者等に課せられる事項(令和9年1月1日施行) 個人事業者等にも一定の義務が課せられます。その一つは「業務上災害報告制度」です。現在の事業者に課せられている「労働者死傷病報告」のようなものと考えられます。また個人事業者等にも、①構造規格や安全装置を具備しない機械等の使用の禁止、②定期自主検査の実施、③安全衛生教育の受講などが義務付けます。 もちろん法令による規制ですから未だ対応されていないときは、確実に遵守することは大切ですが、個人事業者等に対する業務上災害報告制度以外は、従来から法令による規制の有無に関係なく、すでに対応されていることが多いのではないでしょうか。 職場のメンタルヘルス対策の推進(令和7年5月14日から3年以内に施行) 現在、常用労働者数50人未満の事業場には努力義務となっているストレスチェックの実施について、その実施と高ストレス者への面接指導の実施が義務付けられます。 化学物質による健康障害防止対策等の推進 (1)営業秘密である成分に係る代替化学品名等の通知(すでに施行) 従来から化学物質の成分名を明らかにすることは、当該物質を取り扱う作業者の健康管理と企業の営業秘密との関係により多くに議論が行われてきました。今般の改正により、本年4月1日から相対的に危険・有害性の低い化学物質に限り、SDSの通知事項のうち成分名について、代替化学名等での通知が認められることとなりました。代替化学名等で通知されたSDSを受け取った場合でも、事業者は当該代替化学品名等によって通知されたものがリスクアセスメント対象物であるときは、安衛法第57条の3のリスクアセスメント実施の義務は課せられます。その際は安衛則第34条の2の6の2にあるように「リスクアセスメント及びその結果に基づく措置の実施に支障を生じない」と取り扱って差し支えないと考えます。 また、代替化学品名等のよってSDSの成分を通知した者には、その記録の保存、開示のための規定が設けられています。 (2)個人ばく露測定の精度担保(令和8年10月1日施行) 安衛法と作業環境測定法の改正により「個人ばく露測定」が作業環境測定の一部として位置づけられました。「個人ばく露測定」とは、危険・有害な化学物質を取り扱う作業場で働く労働者が当該化学物質にばく露されている程度を把握するために行う測定ですが、その精度を担保するために、従来から行政指導されていることですが、それを法令により一定の資格を有する者が作業環境測定基準に従って行うことが義務となります。少なくとも現行法令により個人ばく露測定が規定されているものは対象となると考えられますが、詳細は施行日までに明らかになるはずです。 (3)危険性及び有害性情報の通知制度の履行確保(令和7年5月14日から5年以内に施行) 化学物質の自律的管理において、最も基本となるのはリスクアセスメントですが、そのリスクアセスメントを適正に実施するための情報を得ることとなるSDSが正しく、かつ、確実に交付されなくてはなりません。そのために化学物質の譲渡・提供時におけるSDSによる通知が確実に行われるようにするために通知義務違反に対する罰則が設けられるとともに、通知事項を変更した場合の再通知が義務化されました。この規定はリスクアセスメント対象物を譲渡・提供する人に係る義務ですが、当該物を取り扱う事業者にとっても適正なSDSの公布を受け、的確なリスクアアセスメントを実施し、その結果に基づくリスク低減措置を講じることが求められます。 機械等による労働災害防止の促進等 特定機械(ボイラー、第一種圧力容器、クレーン等)に対して義務付けられている製造許可や製造時等検査等の制度についての見直しが行われたことと特定自主検査及び技能講習の不正防止対策の強化です。前者は特定機械のメーカーに係る事項ですし、後者は検査機関や登録講習機関等に係る規定です。 高年齢労働者の労働災害防止の推進 令和2年3月に厚生労働省労働基準局安全衛生部長名で、通称「エイジフレンドリーガイドライン」が公表され、高年齢労働者の労働災害の防止を図るため、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、作業管理などの必要な措置を講ずるよう行政指導されてきましたが、今般の改正によりエイジフレンドリーガイドラインに代わって厚生労働大臣が安衛法に基づく指針を示し、事業者は当該指針にしたがって高年齢労働者の労働災害の防止対策をとることが努力義務とされました。内容は従来のエイジフレンドリーガイドラインとそれほど大きな違いありませんが、当該措置が安衛法の規定による努力義務となったことは大きいと考えられます。 このように見てきますと、リスクアセスメント対象物を譲渡・提供する人や特定機械のメーカーや検査機関・登録講習機関にとっては対応しなければならない事項が多くありますが、個人事業者等を含め一般の事業者にとって新たな対応が求められる主なものは、①個人事業者等の業務上災害報告制度、②有資格者による個人ばく露測定、③常時使用する労働者数が50人未満の事業場に課せられるストレスチェックの実施等と考えられます。
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2024/07/01
中小規模事業者(中小企業・小規模事業者)の労働安全推進力強化の方向性
中小規模事業者の労働災害 中小企業庁が公表した中小規模事業者の従業員数は3,310万人/構成比69.7%[うち小規模事業者(従業員20人以下):972.6万人/構成比20.5% 2021年6月1日時点]でした。 厚生労働省が公表した事業場規模別の死傷災害発生件数は、労働者数300人未満では12.3万件/構成比91.4%[うち労働者数30人未満:5.9万件/構成比43.9% 職場の安全サイト 令和5年業種別規模別の労働災害発生状況]となっています。 多くの労働安全関連の調査研究でも指摘されていますように、中小規模事業者の労働災害の発生割合が高く、労働者数100人から299人の事業所の度数率は、千人以上に比べ約4倍という数値もあります。 中小規模事業者の労働安全の問題点 中小規模事業者の労働安全管理には、 人材面・収益面等に余裕がなく、安全活動の推進力が弱い 経営者には経営リスクの視点から安全意識はあるが、経営幹部は業務優先の意識が強い 企業の専門領域に対する知識・スキルは高いが、安全管理のノウハウは低い という問題点が指摘されています。しかし、この問題点は労働安全に限ったものではなく、経営面においても同様な問題点があげられています。つまり、中小規模事業者の労働安全管理は経営管理と一体的に行う取組みであり、大企業のそれらとは異なる取組みが必要であるといえます。 第14次労働災害防止計画 2023年3月27日に公示された「第14次労働災害防止計画」では、中小規模事業者への施策が盛り込まれ、特に、次の囲みの計画が示されています。 中小規模事業者の労働災害発生防止の推進力を高めるには、労働安全と中小企業経営の専門的知識・スキルを有している企業外部の者の活用と、企業経営(マネジメント)と一体的に取組むことが必須であることを、この計画は示しているものと、私は解釈しています。 中小規模事業者のリスクアセスメントとリスクマネジメント 企業経営では、リスクマネジメントをリスク評価(リスクアセスメント)とリスク低減策(回避・低減・移動・許容)の組合せとしています。そして、最も重要なことは、リスク低減策の実施においてPDCAを回し、不確実性の高い現在(VUCAの時代)において不断の見直しを励行することです。 中小規模事業者のリスクアセスメントの実施が低調であるといわれていますが、その原因として、前述の問題点から少ない経営資源の中でリスク評価を実施しますが、リスク低減策は法令遵守を優先することに留まり、その効果を経営者が評価できていない点にあると考えます。 しかし、人員・人材不足、新技術の採用、法改正対応、経営資源の有効活用、事業の永続性確保などを考慮すると、リスクアセスメント・リスクマネジメントの効果的な実施は、企業経営と安全活動に必要であることは過言ではないと考えます。 中小規模事業者集団による労働安全の取組み 中央労働災害防止協会編集発行の「令和6年度 安全の指標」の第4編第6章に「中小規模事業場における労働災害防止対策」において、安全衛生活動を中小規模事業場が集団として実施することは、スケールメリット、相互啓発、相互研鑽という点から効果的と示されています。 中小企業庁が所管する中小企業等協同組合法により設立されている事業協同組合は令和5年3月末において19,370組合になります。ほぼ全業種個々に組織化されています。またこれらの各団体は中小企業団体中央会に所属しています。都道府県毎の中央会で、多くの中小企業診断士が活動しています。 リスクアセスメントにおける危険源・危険状態・危険事象とリスクレベルは、業種毎に共通化でき、その取組みを中小規模事業場集団が担えると私は感じています。その上で、中小規模事業者は自社の経営資源である技術力とノウハウ・スキルを発揮し効果的なリスク低減策の立案と実施マネジメントに投入できると考えています。内容によっては自社事業の成長発展に活用できるかもしれません。 このような取組の成果は、推進力を強化するだけでなく、より魅力ある企業に成長する機会を与えることになると確信しています。 労働安全コンサルタントと中小企業診断士の活用 リスクアセスメント・リスクマネジメントを効果的に実施するには、情報収集が大切です。 この7月24日から開催される第11回労働安全衛生展は国内でも少ない労働安全衛生を中心にした展示会です。このコラムを読まれた方は参加されると思いますが、私共労働安全衛生コンサルタント会東京支部は日本能率協会との共同企画で特別講演会を三日間開催します。是非、この講演会にもご聴講されることを御願い申し上げ、有用な情報を収集されることをお薦めします。 また、中小規模事業の経営者・幹部の皆様、及び事業協同組合の皆様が、経営改善と安全活動の改革を推進したいと考えられる際には、是非、労働安全衛生コンサルタント会東京支部にお尋ねください。 当会は中小企業診断士も参加しており、他の中小企業診断士との連携を図りつつありますので、皆様の課題解決に貢献できると思っております。活用できるものは大いに使いましょう。
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2024/06/12
ヒヤリハット活動を上手に活用しよう!
活動が形骸化していませんか 「皆様の職場では、安全衛生における活動は何をされていますか?」このフレーズは筆者が各職場にお伺いする際に、最初に投げかける質問です。読者の皆様方にも同じ質問でお聞きいたしますが、如何でしょうか? さて新年度がスタートして、職場の安全衛生計画の諸活動も始まったばかりです。各業種・業態によって活動の内容、活動の広がりや深さは異なりますが、この中でも「ヒヤリハット活動報告」は、ほぼ全ての職場において実施されていると言っても過言ではありません。皆様の職場でも実施されておられるところが多いと思います。一般的に日頃の業務の中で「ヒヤリ」とした、「ハット」した事象を報告する活動ですから、活動内容が理解しやすく、また職場に馴染み易い活動です。 一方で、各職場の安全担当者からお伺いするのですが、ヒヤリハット報告が出てこないといったお悩みを抱かれているケースを多くお聞きします。また1件/月等の目標設定をして、強制的に報告するように促しておられ、社員の皆様が自律的に活動している理想的な状態とは言えません。 何が問題なのでしょう 本来であれば、ヒヤリハットは働く人々から自主的に報告してもらう活動であり、強制的に報告を義務付けるものでは無いと考えます。始めた当時は活発であったのに、どうして報告が挙がってこなくなるのでしょうか。主な要因として以下が考えられます。 皆様の職場でも同様な要因が見当たらないでしょうか。そもそもヒヤリハット活動は、不安全状態やヒューマンエラーを含めた不安全行動をヒヤリハット情報として現場から積極的に吸い上げ、多角的な視点で分析し対処して、災害の未然防止に生かす活動です。そんな素晴らしい戦術(活動)も兵站が十分でなければ効果が持続できません。十分なヒヤリハット情報を兵站として有効活用できれば改善活動を持続的に実施することが出来ます。 あるべき活動とは 安全衛生に関わる者は、安全衛生活動を常に満足することなく、また大丈夫と思わず適度な不安感を持つことが活動や努力のインセンティブとなり得ます。ヒヤリハット活動も同様に、不安感は作業のリスク感度と連動し、リスク感度の向上と質の高い活動に結び付きます。これを前提として、職場上司や安全衛生担当者はヒヤリハット活動の活性化のために、以下の3点を実行されると良いでしょう。 まず出来ることから始めよう! ヒヤリハット活動は、社員の皆様の危険感受性が高まり、職場の作業状態や行動上の潜在リスクを顕在化する効果があります。また同類のヒヤリハット項目が多い場合は、危険源を特定することに繋がり、リスクアセスメントの実施対象としてリスクの除去や低減措置が図れ、安全で安心な職場に生まれ変わる可能性が高まります。 最近の社会動向では、安全衛生活動は災害防止だけでなく企業イメージや企業価値向上につながり、社会的にも評価されるようになりました。一方で安全で安心というレピュテーションが下がると将来の収益悪化にもつながり、経営環境にも大きなインパクトを与えるようにもなってきました。 安全衛生活動を活性化し、地域社会の中で、信頼と信用の高い永続的企業として存続し続けるために、ヒヤリハット情報を「気がかり情報」にまで範囲を広げ、主語を本人だけでなく同僚や上司、お客様など利害関係者まで広げて、現場から報告しやすくするのも手です。特にステイクホルダー視点は安全性だけでなく事業者のサービスや製品の質を格段に上げることに貢献出来ます。 今までの活動に、少しの変化と工夫を加えるだけで、働きやすい職場環境が実現できますので、まず出来ることから始めてみましょう。 参考:岡田有策(2023):ヒューマンエラーと経営戦略
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2023/06/15
健康に生きて、健康のうちに死す
健康に生きて、健康のうちに死す 皆さま、こんにちは。このコラムも最終話となりました。そして当該コラムの執筆者の方々が所属する、(一社)日本労働安全衛生コンサルタント会東京支部の多数のコンサルタントが講演する「猛暑・熱中症展/労働安全衛生展/振動対策展」開催まで約一か月となりました。お申し込みは済ませていただけましたでしょうか。 さて、最終話は、身体的な健康にかかわるコラムになります。2018年5月に気候変動適応法が施行され、5年ごとの見直し法令に従い2030年までの熱中症対策の目標値が国から表明されました。‘平均で千人超の死者数を2030年までに半減させる目標を設定。政府は近く計画を閣議決定し、今夏から対策を強化する方針’とのことです。岸田総理大臣は熱中症の死者は8割以上が65歳以上の高齢者であることを自ら語られました。高齢者にとりエアコン使用は贅沢であり、使用することを極力控える意識が高いこと、また高齢になると寒暖差が感じにくくなり水分摂取が進まないことも一因です。一方で職場の熱中症対策はデジタル化も急速に進み、WBGT(https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php)測定とその結果による作業現場対策実施、またそれ以外に従業者のバイタルサイン(体温・脈拍・血圧・発汗状態等)を随時捉え客観的に必要な対策が取れるようになり、さらに体からの放熱を促す装着型の機器の軽量化や効率化が行われており、目をみはるものがあります。今回の「猛暑・熱中症展」でも、数多くの熱中症対策機器やバイタル監視システム・作業衣等の展示がありますので、是非見に来られてください。また、作業管理では、熱順応を行うことや、その日のWBGTに合わせた作業時間・休憩時間の設定も当然に行われている様子です。しかし、これだけ周辺機器等の整備が整っていても、まだ熱中症は起こります。それはなぜか。偶発的事故なのでしょうか。それとも、予算がない、わかっていても行動を起こすことができない、またはもっと上流の理由:情報を得る機会がないからでしょうか。 同じ疑問を職場の労働安全衛生法による定期健康診断結果にも抱きます。健康診断は就労者の90%以上の方が受診されています。しかしながら、健診結果有所見率は2008年度を境に50%を超え、毎年度微増し続けています(2021年度は58.7%。厚生労働省調べ)。40歳以上の方が受診する、皆さまが加入している健康保険の保険者が実施する特定健康診査(会社勤務の方は労働安全衛生法による健診と同時実施のスタイルが多いです)も実施されていますが、こういった健康診断を受ける意味はどこにあるのでしょう。ただ、健康状態を国が調査しているだけなのでしょうか。 その意味を理解するため、健康診断はだれのために受けるのか考えてみましょう。皆さまの雇い主は従業者への安全・健康配慮義務がありますが、そんな冷たい日本の風土ではないはずです。元気で働いてくれているか、働く際に危険はないか、予め洗い出しておき対策をとることが目的でしょう。従業者にすれば、当然自身のため、そして家族のためかもしれません。でもよく考えてみてください。毎年受診するだけで何か改善すべきことを放っておいてはいないでしょうか。それは事業主や産業医等にも問われることではありますが、まず自身に問うべきことでしょう。熱中症対策の上でも、他の事故案件にもあることですが、根本的に事故が無くならない要因は、「このくらいならば大丈夫」と過信することからくるのではないでしょうか。同じことを、健康診断の結果を見た時に、感じないでしょうか。このくらいならば大丈夫だと考えていないでしょうか。そして、もう一つ、健康診断の結果に問題がない場合でも、誤った考え方をしていないでしょうか。つまり、「健診結果が問題ないから、次年度の健診まで健康は保証された」という考えです。しかし、健診を受けてから結果を手にするまでにすでに2~3週間は経っています。すでにそのデータは、皆さま自身の過去の身体状況の結果なのです。従い、次年度の健診までの健康を、当然保証するはずのものでもありません。結果が良ければ、「この1年よく頑張ったね」、という代物なのです。では、私たちは、どうしていけばよいのでしょうか。 さて、私の身近な知人に、90歳と91歳のいわゆる幸福な女性たちがおられます。二人とも同じような背格好で疎開を経験した東京出身の方です。90歳の方は、1年前に脊柱圧迫骨折を起こし、多少は歩けるようになったものの、それ以上リハビリを希望せず、車椅子生活を余儀なくされ、最終的に介護付き老人ホームに入所しました。もう一方の91歳の女性は、自宅にてゆったりと毎日を送っています。病歴は90歳の方は18歳のころに結核、また91歳の方は大腸がんを60歳時に患っています。ですが91歳の今は健康そのもので,年齢相応またはそれ以上に自身で思うように活動できています。その差は何でしょう。 ヘルスリテラシーという言葉があり‘健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力のこと’という定義がなされています。現在は情報が満ち溢れ、健康につながる情報の取捨選択が難しくなっていますが、人生100年を健康に過ごすためには、この考え方なくしては健康のうちに死すことは不可能でしょう。前述の91歳の女性は、今でも週3回の区の健康体操に通っています。もう50年以上続けているとのことで、コロナ禍でも自宅で簡単な体操をしていたそうです。90歳の女性は食事には多少気を付けてはいたようですが、自身で運動するなど決してしない方です。皆さんは90歳の女性と91歳の女性、どちらになりたいですか? 身近な一例を極端な視点からお伝えしましたが、皆さんの健康は、まず皆さんのものだと強く認識してください。どうかご自身を大切にし、家族を大切にし、職場にも活気を与えてください。歳をとってもやりたいことができるすばらしさを想像し、自身の頭で考え、必要ならば専門家の手を借り、活動を始めてください。最後は健康のうちにこの世とお別れする、そのためにはまず、今、ご自身の健康状態を省みて、治療が必要ならば病院にかかることです。女性は子宮頸がんや乳がん等若年でも発症するがんの検診を自分から若いうちから受診すること、男性も一定年齢になったら自分からがん検診を受診すること、そして皆さん、喫煙はやめていただき、その分大好きな方にプレゼントをしたり、貯金をして大きな買い物をしたり、旅行に出かけたりしませんか。Quality of Death. 死の質を高めて参りましょう。 それでは、熱中症やコロナ感染・麻疹等に気を付けてお過ごしいただき、7月に東京ビックサイトでお会いしましょう!大勢の方のご参加を、皆でお待ちしています。
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2023/05/27
労働安全衛生コンサルタント「安全衛生対策=コストから投資へ⇒皆様のお手伝い」
昨年、労働安全衛生法では多くの法改正が施行され、更に、本年も大きな法改正がいくつか施行されます。各企業様の安全衛生管理の在り方も、大きな変革が求められます。施行された法改正の「今まで」と「これから」の一部を、確認したいと思います。 ここで重要な点は、自社業務に関連する法改正の内容を把握し、その一つひとつに確実に対応されることが強く求められることです。また、安全衛生管理担当様の業務対応能力、安全衛生管理能力もますます高度に求められるようになっていきます。 このような状況下、昨年から第14次労働災害防止計画(以下第14次防)が開始されました。事業者が労働者協力のもと達成を目指すアウトプット指標が6項目定められ、その指標を達成した結果、期待される事項がアウトカム指標として定められています。 この度の労働災害防止計画では、安全衛生対策を「費用としての人件費」から「資産としての人的投資」に変革させることが掲げられ、同対策が事業者の経営戦略の観点か.ら重要性が増していることが示されています。この意味と価値を正しく理解し受け止めて、「投資」としての安全衛生管理に取り組む企業は、社会的に大きく評価され、人材も喜んで集まる会社となることが実現されます。 また、「安全最優先」、「安全第一」を唱える一方で、「安全には費用をかけることが、なかなか難しい」と思われている企業様は多いのではないでしょうか。 ここ数年の数々の安全衛生法改正に、「形」だけで対応するのでは、現場の業務負担だけが増し、企業としての発展を望むことは難しいと思われます。法改正の趣旨を正しく理解し、その一つひとつを自社実態に合わせて業務を変革させること、さらに「投資」としての安全衛生対策を実施‧実践することで、労働者の安全と健康が確保された、事業発展の継続が確立します。それは決して簡単なことではありませんが、その局面に私ども労働安全及び衛生コンサルタントの存在価値があると存じております。 私どもは、まずはお客様の現場に伺い、作業実態を拝見させていただきます。合わせて現場ご担当者様から様々なお困りごと、ご要望などをヒアリングさせていただきます。そのうえで、専門知識と経験に基づき、適法でお客様の業務実態に即した安全衛生向上のための提案を行わせていただきます。今まで数多くの企業に安全衛生コンサルティングを行い、ご評価をいただいて参りました。安全衛生という面から産業界の発展に貢献していくことが、私どもの使命であると存じております。 7月に開催される第11回東京労働安全衛生展では、日本労働安全衛生コンサルタント会東京支部に所属する12人の労働安全衛生コンサルタントが講演を行います。各企業様のこれからの「安全と健康経営~事業発展」に欠かせないテーマについて、最新で有益な情報を無料提供させていただきます。 多くの方々にご参加いただき、講演を通し貴重なご縁が得られますことを、心から楽しみにしております。 毎日 みんなが 笑顔で ただいま
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2023/05/22
新規採用者・経験未熟者のためのノンテクニカルスキル教育
企業の悩み 企業は事業を進めていく中で、様々な課題・問題を抱え、それらの解決策に尽力している。特に、ここ数年は、新型コロナウイルス感染症(COVID 19)による働き方の変革、仕事の進め方の見直しやウクライナ問題による食料やエネルギーといった商品市況の高騰、貿易、そして金融に関する影響が世界規模で顕在化してきている。このような背景に加え、SDGsによる持続可能を求めた環境革命の影響も大きく、企業はよりその社会的責任が求められるようになってきている。企業は、その社会的責任や存在意義を示すために、組織の維持、強化を図っていく。組織は人の集団であるが、その人について、企業は課題等を抱えていることも少なくない。例えば、求人をかけても応募する人が少ない、人材育成をどのように進めていけば良いのかわからない、先輩から後輩への技術の伝承がうまくいっていない、あるいは、安全衛生には注意しているはずなのに事故・災害が起こってしまう等である。いくつか例を挙げたが、実際には企業によって、また業種によって違った課題が見えてくるが、今回は、事故・災害が起こってしまう点について着目したい。 それでも事故・災害は無くならない! 「当社は、安全衛生活動計画をしっかり建て、安全衛生教育計画も毎年しっかり実施している。安全衛生関連書類も整備されている。リスクアセスメントも行い、仕事前のツールボックスミーティング(以下、T B Mという)や危険予知活動(以下、K Y Kという)もきちんと行っている」という企業がほとんどでは無いだろうか。そういった企業の安全衛生診断を行うと、確かに、安全書類は整備され、T B MやK Y Kもきちんと行っている。当日の作業の危険なポイントも洗い出され、それについて対策や行動も考えられている。しかし、事故・災害は無くならない。そのために、「なぜ事故・災害が起こるのか」さらなる深掘りが必要となる。安全診断において、安全書類や現場でのT B M、K Y Kを私自身の目でみて確認しても、非常によくできており、何故、事故・災害が起こるのだろうかと考えさせられる。原因分析のために現場で働く人々に対し、ヒアリングを行い、客観的な事実を確認すると、業種業態は違うが、一貫して共通した課題・問題がある。それは、ノンテクニカルスキルの教育活用がうまく実行されていないと言う点である。特に、新規採用者・経験未熟者への教育に関して感じるのである。昨今、ヒアリングで前職や社歴をお聞きすることがあるが、前職が現在の仕事と全く違う仕事をしている方も少なくない。終身雇用の終焉や働き方改革の煽りを受け、仕事を変えざるを得なくなって仕事を変える人たちもいる。こういった方々に対しては、テクニカルスキルよりも、むしろノンテクニカルスキルが必要ではないか!とさえ感じる。もちろんテクニカルスキルが最も大切であることは言うまでもないが、テクニカルスキルを補完するためにノンテクニカルスキルが重要であると言うことである。 ノンテクニカルスキルとは? ノンテクニカルスキルとは、専門的な技術・能力を意味するテクニカルスキルのような専門的なスキルでは無く、非専門的な技術のことである。例えば、コミュニケーション能力やチームワーク、状況認識力などがノンテクニカルスキルである。いかにリスクアセスメントを知っていても、慣例的に安全パトロールを行なっていても、事故・災害を無くすには、テクニカルスキルだけではなく、ノンテクニカルスキルの理解と実行が必要である。その理解と実行について、新規採用者・経験未熟者には特段の安全配慮が必要である。そのために必要なこととは何か?これらの方々への安全意識の醸成は基本として、その方々に安全な環境を作り上げるためのノウハウを企業が提供することではないか。労働安全衛生法による安全衛生教育そのものではなく、その教育をいかに効果的に進められるかという観点からノンテクニカルスキルが大切なのである。 効果的・効率的なノンテクニカルスキル教育計画の建て方 安全衛生教育とは、労働者が安全で衛生的な業務を遂行しながら事業場における労働災害を防止するために行われる教育のことを指し、事業者には実施義務がある。教育効果を高め、事故・災害を起こさない行動を起こす仕組みのための教育がノンテクニカルスキル教育であると私は考えている。再度、言う。新規採用者・経験未熟者には、テクニカルスキルよりもむしろノンテクニカルスキルが必要であると感じている。それでは、ノンテクニカルスキル教育の内容と計画の建て方について説明したい。安全衛生教育然り、リスクアセスメントや当日のT B M・K Yも、社内外のコミュニケーションが必要であり、安全衛生指導者にはティーチング・コーチング技術、そして、現場で働く人にとっては、危険なところを危険と感じる危険感受性についての教育(=ノンテクニカルスキル)が必要になる。危険感受性については、業種業態は関係ない。危険と感じるかどうかである。これらのノンテクニカルスキルとテクニカルスキルを有機的に結びつけて計画を建てると良いのではないだろうか。たとえば、事故・災害が無くならないとお困りの場合、教育内容そのものをもう一度考えてみてはどうだろうか。現場ではコミュニケーション能力やチームワーク等が必要とされる。現場でのコミュニケーション能力とは何か、チームワークとは何か、安全衛生教育計画に加えてみることである。それでも、安全衛生活動について、どうしたら良いか迷われている方、少しでもきっかけの作り方をお知りになりたい方は、7月27日(木)、東京ビッグサイトにお越しください。
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2023/04/12
今こそ考えたいストレス対策:「ストレスフリー」を考える
ストレス対策を見直す好機 近年よく耳にする「ストレスフリー」という言葉があります。これはどのようなことを意味しているのでしょう?「職場からストレスをゼロにすること」と言った人がいました。はたして、そうなのでしょうか? さて、新年度がスタートし、新社会人として働き始めた方もいれば、職場異動で新しい職場で働き始めた方、また、新たなメンバーを迎え入れたばかりという職場の方もいらっしゃるでしょう。一緒に働く人の顔ぶれが変わると新しい視点が加わって職場に活気が出てきます。一方で、少し時間が経つと、お互いに違和感を感じてぶつかってしまうこともあります。でも、これは決して特別なことではありません。当然なことです。これだけ社会が多様化し、経験した背景の異なる人が一緒に仕事をするのだから、ぶつかることがあって当然です。 厚生労働省の調査によると仕事や職業生活に関する強いストレスを感じている人は53.3%で、その主なものは、「仕事の量」「仕事の質」「対人関係」となっています(令和3年度調査)。新しいメンバー、新しい仕事がスタートしたちょうど今、職場のストレス対策を見直すのに好機ともいえるかもしれません。 ストレッサー(ストレスの引き金)が問題か? 1968年にHolmesらが発表したストレス度(ストレッサーとなる出来事)を点数化したものやそれを日本人で調査したもの1)によると、ストレスは仕事に関連するものもあれば、プライベートな仕事以外のものもあり、出来事によってそのストレス度は異なることがわかります。そして、その出来事を丁寧に見ていくと、「配偶者の死」や「会社の倒産」といった明らかに悲しい出来事に加えて「抜擢に伴う配置転換」や「結婚」といった喜ばしい出来事もストレッサーに挙げられていることがわかります。したがって、ストレッサーとは、仕事上・仕事外問わず、生活上の変化となる出来事として捉えることができます。 筆者は、ストレスチェックを実施し、その面談の一端を担うことも多く、このような声を聴いたこともあります。「私の職場はずっと長く何年も変化がないのです。この先もずっと同じなのかと思うと本当に味気なくて、なんともやりきれない気持ちになります。」このことから、ご存じの方には思い起こしていただきたいのが、ストレス学説を提唱されたハンス・セリエ(Hans Selye)博士が唱えたといわれる言葉です。「ストレスは人生のスパイスである」。つまり、ストレスそのものが悪ではなく、ストレス(厳密にはストレス反応を引き起こす引き金となるストレッサー)を抱えきれなくて対処できないことが問題と言えます。もちろん、大きすぎる(多すぎる)ストレッサーは問題です。 「ストレスフリー」はどんな姿? つまり、「ストレスフリー」とは、こんなふうに考えられないでしょうか。できるかぎりのストレッサーを減らす一方で、個人の対策としても「どうすれば上手く対処できるか」を常に考えながら、上手く他者のサポートを得てストレス反応を減らせること。目新しい考え方ではなく、ストレス対策の基本の考え方です。あらためて、そのポイントを挙げるなら次のような点でしょう。 ストレス(ストレッサー)は悪いとばかりはいえない ストレッサーをできるだけ軽減させたいが、ゼロにならない可能性はある ストレッサーによる個人(職場)のストレス反応を小さくするための個人の対策(認知・考え方、睡眠や食事・運動などの生活行動)も重要で、一方で身近な他者のサポートも上手く得られる工夫も重要 今すぐできるちょっとした実用的なストレス対策 そこで、新しいメンバーを職場に迎えられた方に、少し時間が経過したところ(1~3ケ月)で是非お勧めしたいのが次のようなさりげない真面目な雑談としての声かけです。「うちの職場で、うまく仕事ができたなぁと感じられたのはどんなところ?」「うちの職場で仕事してみて戸惑ったところはどんなところ?」職場にすっかり馴染んでしまうと、職場の良いところも課題も見えにくくなりやすいものです。時に耳の痛い言葉をもらうかもしれません。が、ここは、率直な声にじっくり耳を傾けてみてください。(ストレスチェックを実施されている職場であればそれに加えて)実用的な職場のストレス対策につなげられる可能性があります。 ちなみに、個人で行えるストレスチェックは、厚生労働省のHP「こころの耳」で5分程のweb診断で行うこともできます(「5分でできる職場のストレスチェック」のコーナー)。この「こころの耳2)」は、働く人(職場)のメンタルヘルス対策に特化したポータルサイトです。企業規模に応じた他社事例の情報も得られます。時季に応じた記事も常に刷新されていますので、時々チェックされるとよいでしょう。 「職場のストレス対策」が貴社にとって有益なものになっているかどうか、新年度がスタートした今こそ点検をお勧めします。 参考:1)夏目誠(2008):出来事のストレス評価2)こころの耳
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2023/03/15
新年度を迎える時期に知っておきたい「リスク」と「失敗」の付き合い方
年度替わりの時期として卒業式や送別会が行われ、入社式や配置転換等で、別れと新たな出会いの交差する時期を迎えます。寒さ厳しい冬を超え、柔らかな日差しが眩しい春を迎え、企業等では新年度計画に向け心機一転といったところではないでしょうか。 コロナウイルスが蔓延してから3年ほど経過しました。ウイズコロナとしての環境変化に即した新たなビジネスの立ち上がりや、既存ビジネスで景気回復の機運が見受けられます。 安全衛生に目を向けますと、コロナ禍で一旦職場を離れる従業員が多かった飲食店では、景気回復に伴う人手不足で、開店時間を短縮し来客数を制限し、ビジネスチャンスを逸しているケースも散見されます。 一方では、新たな従業員を迎えても早計な現場配属が、業務に未熟で精通していない要因から、包丁などでの切創や熱湯での火傷等の労働災害が数多く発生しています。この傾向は飲食店に限ったことではありません。今回第一回目のコラムは、この新年度を迎える時期に知っておきたい「リスク」と「失敗」の付き合い方についてお知らせします。 リスクについて 1点目は「リスク」です。この時期は、多くの「新しい変化」が私達を待ち受けております。変化はリスクの生みの親であり、またそのリスクは新しく機会側に振れるビジネスチャンスと脅威側に振れる場合とがあり、変化によるインパクトのバラツキと捉えてよいでしょう。企業経営では敢えて脅威となるリスクを含むことを承知で機会に臨みリターンを得ます。逆にリスクを回避してばかりではリターンを得ることは出来ません。リスクマネジメントが企業経営において重要な所以ですね。皆さんの職場でも重要な意思決定される場面が多いのも比較的この時期ではないでしょうか。特にコロナ禍からウイズコロナへの移行期と、新年度が重なるこの時期に環境変化の波が押し寄せます。 失敗について 2点目は「失敗」です。失敗は成功の母と言われます。人類は失敗を重ねて試行錯誤しながら進化してきました。「失敗無くして成功なし」です。皆さんの中でも新しい職場に配属される方がいらっしゃると思います。仮に配属先の組織文化や経営者が、失敗やミスを許容しない状態を考えてみてください。おそらく貴重な失敗やミスが報告されず、また社内共有できず、進化のプロセスは思考停止されてしまうでしょう。何でも報告し合える組織、そのためには失敗に対する前向きな姿勢に改めることが肝要です。米国第32代大統領のエレノア・ルーズベルトは言っています。「人の失敗から学びましょう。自分では全部経験するには人生は短すぎます」。 また、自分自身の失敗を認めないがために、報告し共有できないもう一つの要素が「認知的不協和」です。認知的不協和は、人が自分の信念と相反する事実を突きつけられると、その矛盾によって生じる不快感やストレスによって、事実の見方を変えて都合よく解釈してしまう心理的特性です。必死になって自己正当化し、失敗から学ぶのではなく事実を捻じ曲げてしまい自分で自分を欺くプロセスなのです。しかしながらやっかいなことに認知的不協和に陥っていることに滅多に気付けないのです。海の向こうでは悲惨な戦争が続いていますが、この認知的不協和も影響しているのではないでしょうか。早く平和が戻ることをお祈りいたします。 自主的安全活動の重要性 前段では、主に企業経営の視点でリスクと失敗を述べてきましたが、労働安全の視点に振り返ってみましょう。人はミスをして、よく忘れる生き物です。心理学的には欠陥だらけの生き物ともいわれています。ヒューマンエラーは必ずあるのですから、不安全状態の改善と不安全行動の回避を行うために、事前に不安全状態の危険の芽を摘み取るリスクアセスメントと、行動の際に不安全な行動を指差し呼称を含めた危険予知活動で回避することが最も効果が高いと考えられています。数多くの死亡災害や重大災害に直面した先人が、その教訓から考えてきたこれらの自主的安全活動は、まさしく失敗から学んできた価値ある活動です。ヒヤリとした場面に遭遇し脅威となるリスクを報告し合い、災害防止対策に生かすヒヤリハット報告制度もまさにこの考え方です。 安全にとって欠かせないこと 最近では新規事業等での究極の失敗型アプローチとして、「事前検死」という手法が注目されています。プロジェクトが終わった後でなく、あらかじめプロジェクトが失敗した状態を想定して、なぜうまくいかなかったのか、チームで事前に検証することで、通常なら埋もれている失敗理由が浮き彫りになります。この対策を事前に生かすことでプロジェクトを成功に導くのです。言わばリスクを事前に摘み取り成果を得る活動です。環境変化のスピードと複雑な大きなうねりのVUCAの時代では、ビジネスチャンスの小さな芽を見つけて育て、脅威のリスクの芽を早いうちに摘み取る活動を、変化が続く限り継続する姿勢が大切なのです。 まとめ 最後になりますが、新年度を迎えて、新たな気持ちで職場に向かわれる皆さんに一言申し上げます。変化に伴うリスクが多いこの時期だからこそ、前向きに失敗を学習のチャンスだと捉える組織文化を根付かせること、これこそが安全文化を醸成するための第一歩になるのです。